知識

UXデザインの潮流が、デザイナーに要求するもの

UXデザインに携わりながらも、自身をUXデザイナーであると位置づけているデザイナーはそれほど多くないように思います。デザインは多岐にわたる領域であり、それぞれのデザイナーは専門性や興味に基づいて異なる分野に携わっています。

 

しかし、最近ではユーザーエクスペリエンス(UX)の重要性が高まり、UXデザインの需要も増加しています。UXデザインはユーザーのニーズや要求を理解し、それに基づいて製品やサービスのエクスペリエンスをデザインすることを目指します。UXデザイナーという肩書きでなくても、デザイナーのスキルセット/マインドセットとして、ビジネス現場あるいは人材市場の要求が高まっています。

 

ここでは、WEBデザインからUXデザインへの要求変化に伴って変容するデザイナーの仕事や、今後のUXデザインとの関わりについて考察していきます。

スキルセットとマインドセット

デザイナーには幅広いスキルと技術、クリエイティブな思考、ユーザーセンタードなアプローチ、協働能力が必要です。自己研鑽と成長を追求し、常に最新のトレンドや技術に対応する柔軟性を持つことが重要です。代表的と思われるスキルセットとマインドセットについて、まとめてみました。

UXデザイナーのスキルセット

UXデザインについてプロフェッショナルの目線で考える際に重要なスキルセットを挙げます。これらを意識しながら、デザインに取り組むことで、より高品質なデザインを提供し、ビジネスやユーザーに価値を提供することができるでしょう。UXデザイナーに限らず、現代のプロフェッショナルなデザイナーにも同様に求められる共通スキルをまとめてみました。

目的とターゲットオーディエンスの理解

デザインは、特定の目的を達成するために存在します。プロフェッショナルとしては、デザインが何を達成しようとしているのか、誰を対象にしているのかを明確に把握する必要があります。それに基づいて、デザインの方向性やコンセプトを考えることが重要です。

ユーザビリティとエクスペリエンスの最適化

ユーザーの体験を向上させるための手段がUXデザインです。UXデザイナーは、ユーザーが製品やサービスをどのように使用し、どのようなエクスペリエンスを求めているのかを考慮し、使いやすさと親しみやすさを追求します。

ブランドイメージの維持と強化

企業やブランドのアイデンティティを表現する重要な手段を提供するのもデザインです。プロフェッショナルなデザイナーは、ブランドの理念や価値観を理解する力、ブランディングについての知識が要求されます。それをデザインに反映させることで、一貫性のあるブランドイメージを維持・強化します。

技術とトレンドの追求

私たちの社会環境は常に変化し、技術は進化しています。プロフェッショナルなデザイナーは、最新のデザイン技術やトレンドを継続的に学び、自身のスキルを向上させる努力を惜しまない必要があります。また、新しい技術やトレンドを適切に取り入れながら、時代に合ったデザインを提供することも求められます。

プロジェクト管理とコミュニケーション能力

デザインは通常、プロジェクトチームの一部として行われます。プロフェッショナルなデザイナーは、プロジェクトの進行管理やスケジュール管理、他のチームメンバーとの効果的なコミュニケーションなど、プロジェクト全体を円滑に進める能力も必要です。

UXデザイナーのマインドセット

UXへの関心の高まりによって、マインドセットにもいくつかの重要な変化が見られます。スキルセット同様、UXデザイナーだけでなくプロフェッショナルなデザイナーの共通スキルをまとめてみました

クリエイティブな思考

いうまでもなく、デザインは創造的なプロセスです。プロフェッショナルなデザイナーは、常に新しいアイデアを生み出すためのクリエイティブな思考を持っています。柔軟な思考や問題解決能力を駆使し、革新的なデザインソリューションを提案します。

ユーザーセンタードなアプローチ

UXデザインはユーザーに対して意味のある体験を提供することが求められます。UXデザイナーは、ユーザーの視点に立ち、ユーザーのニーズや要求を理解し、それに基づいてデザインを考えます。ユーザーセンタードなアプローチを持つことで、効果的なデザインを生み出すことができます。

継続的な学習と成長

現代社会では常に新しい技術やトレンドが登場し、デザインの方法やツールも変化しています。プロフェッショナルなデザイナーは、継続的な学習と成長のマインドセットを持ち、自身のスキルや知識を向上させる努力を惜しまないことが重要です。

コミュニケーションと協働能力

デザインは通常、複数のステークホルダーとの協働が必要です。プロフェッショナルなデザイナーは、クライアントや他のチームメンバーとの効果的なコミュニケーション能力を持ち、意見やフィードバックを適切に伝えることができます。協調性を持ち、チームとの協力を重視することが求められます。

クオリティの追求

プロフェッショナルなデザイナーは、クオリティへの追求、細心の注意が欠かせません。デザインの細部にまでこだわり、品質の高い成果物を生み出すために努力します。また、デザインの目的や制約を適切に考慮しながら、バランスを取ることも重要です。

これらのマインドセットを持つことで、デザイナーはプロフェッショナルな視点で仕事に取り組むことができます。クリエイティブでユーザーセンタードなアプローチを持ちながら、継続的な学習と成長を重ね、協働能力とクオリティへの追求を持ってデザインを進めていくことが重要です。

UXデザイナーの知識と教養

UXデザイナーに求められる知識や教養は多岐にわたります。以下に、一般的に重要とされる要素をいくつか挙げてみます。

ユーザーエクスペリエンス(UX)の原則と理論

UXデザイナーは、ユーザーの心理や行動、インタラクションデザインの基本原則について理解していることが重要です。UXデザインの基本的な理論やフレームワーク(例: ニールセンのユーザビリティの10原則、ギャレットのUX5階層モデルなど)に精通していることが求められます。

ユーザーリサーチと分析方法

デザインの対象への洞察を深める手段として、ユーザーリサーチの手法やユーザーインタビュー、フィールドリサーチ、プロトタイピングなどの実施方法について理解していることが重要です。データの収集と分析に基づいて、ユーザーのニーズや行動パターンを把握し、デザインの根拠を立てる能力が求められます。

インタラクションデザインと情報設計

静的な画面構成だけでなく、インタラクションや情報の構造化に関する知識が必要です。ナビゲーションパターン、ユーザーフロー、情報アーキテクチャの設計原則などについて理解していることが求められます。

ユーザビリティとアクセシビリティ

ユーザビリティの原則やアクセシビリティのガイドラインについて理解していることが重要です。ユーザビリティテストやアクセシビリティテストの手法に精通し、ユーザーが利用しやすく、バリアのないデザインを作成する能力が求められます。

デザインツールとプロトタイピング

主要なデザインツール(例: Sketch、Adobe XD、Figma)の使用方法に慣れていることが求められます。また、プロトタイピングツールを使ってアイデアの検証やデザインの共有を行う能力も重要です。

ビジュアルデザインとブランディング、マーケティング

視覚的なデザインの原則やカラーセオリー、タイポグラフィなどの基礎知識が求められます。これらがブランディングやマーケティングの中でどう位置づけられるかや、デザインの一貫性やブランドアイデンティティの維持に関する理解が重要です。

これらの知識と教養は、UXデザイナーがユーザーエクスペリエンスに基づいたデザインを行うために重要な要素です。しかし、デザイナーが全ての分野に精通している必要はありません。自身の専門性や関心に基づき、これらの知識を積極的に学習し、経験を通じて磨いていくことが重要です。

デザイナーの市場(生存)戦略

デザイナーの市場は一般的に競争が激しく、需要と供給のバランスが存在します。以下にいくつかの客観的な情報を提供しますが、デザイナー市場は地域や業界によって異なるため、具体的な状況は変動する可能性があります。

まず、デザイナーという人材市場について見ていきましょう。

デザイナー市場の現況

需要の高まり: デザインの重要性が認識され、企業や組織の多くがデザインを戦略的な要素として取り入れています。ウェブデザイン、グラフィックデザイン、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインなど、特定のデザイン領域においては需要の高まりが見られます。

スキルセットの多様性

デザインには様々な分野や専門性が存在し、それぞれの分野において求められるスキルセットが異なります。例えば、ウェブデザイナーやユーザーエクスペリエンス(UX)デザイナーなど、特定のスキルや経験を持つデザイナーの需要が高まっています。

フリーランスの活躍

フリーランスのデザイナーが増えており、企業やクライアントはプロジェクトごとにデザイナーを雇用することが一般的になっています。柔軟な働き方や特定の専門性を求める案件において、フリーランスのデザイナーの需要が高まっています。

技術とトレンドの進化

デザインの技術やツールは常に進化しています。新しいデザインソフトウェアやテクノロジーの登場により、デザイナーは常に最新のスキルを習得する必要があります。市場では、最新の技術やトレンドに精通したデザイナーに対する需要が高まっています。

競争の激化

デザイナーの市場は競争が激しいです。多くのデザイナーが新たに参入し、優れたポートフォリオとスキルセットを持つデザイナーの需要が高まっています。競争に勝ち残るためには、独自のアイデンティティや専門性を持つことが重要です。

これらは一般的なデザイナー市場の傾向ですが、市場の状況は変動するため、最新の情報を収集し、自身のスキルと知識を向上させることが重要です。

市場環境の変化に対応することへの必要性

デザイン業界では、成長や挑戦の機会を求めるデザイナーも多く存在しますが、中には安定性や安心感を重視し、特定の会社やプロジェクトに長く携わりたいと考えるデザイナーもいまるでしょう。個人のキャリア目標や価値観によって異なるため、すべてのデザイナーが競争に積極的に参加する必要はありません。ただし、市場の進化に注視して競争力を保つ事は最低限必要で、常に学習と成長に取り組むことが重要です。

ユーザーの期待の変化

ユーザーのニーズや期待も変化しています。技術の進歩やデザインの進化によって、ユーザーはより高い品質や利便性を求めるようになっています。競争上の優位性を維持するためには、ユーザーの期待に合ったデザインを提供する必要があります。

クライアントの要求と競争環境

デザイナーは通常、クライアントの要求に応じたデザインを提供します。競争が激しい市場では、優れたデザインだけでなく、クライアントとのコミュニケーションやプレゼンテーションのスキルも求められます。競争力のあるデザイナーは、優れたデザインだけでなく、クライアントとの信頼関係を構築し、競合他社との競争に勝ち抜くことができます。

自分自身のキャリアをデザインする

自分自身のキャリアをデザインすることは、デザイナーとしての能力そのものに関連しています。デザインのプロセスや思考法を適用し、自身のプロフェッショナルなキャリアを計画し、形成していくことが重要です。
以下に、キャリアをデザインするための要点を整理してみました。

自己分析と目標設定から、具体的なアクションへ

自分自身を客観的に見つめ、自身の強み、スキル、興味を分析しましょう。その上で、将来の目標やキャリアパスを明確に設定します。デザインのどの分野に進みたいのか、どのようなプロジェクトや組織で働きたいのかを考えましょう。

優れたポートフォリオの構築

ポートフォリオはデザイナーが自身のスキルや能力をアピールするための重要なツールです。優れたポートフォリオを構築し、自身のクリエイティブな能力や実績を適切に伝えることが重要です。多様なプロジェクトや実績を含め、幅広いデザインスキルを示すことで、他の応募者と差別化することができます。

コミュニケーションとプレゼンテーションのスキルを磨く

デザインはクライアントやチームとのコミュニケーションが不可欠です。クライアントの要望やフィードバックを正確に理解し、自身のデザインを適切に説明する能力が求められます。プレゼンテーションやコミュニケーションのスキルを磨くことで、クライアントやチームとの関係を構築し、信頼を得ることができます。

セルフブランディングと専門性の構築

自身のブランドを築くことは競争上の優位性を持ちます。特定のデザイン領域や産業において専門性を持ち、その分野での評判や信頼を構築することが重要です。専門知識や経験を磨き、自身の専門性を積極的に発信することで、他のデザイナーとの差別化を図ることができます。

ワークライフバランスの確保

デザイン業界に限った話ではありませんが、プロフェッショナルの世界は忙しいスケジュールやプレッシャーが伴うことがあります。自身の福祉とワークライフバランスを大切にし、心身の健康を維持することがキャリアの長期的な成功につながります。

これらの要素を意識し、常に自身のスキルや知識を向上させることで、デザイナーとしての競争力を高めることができます。ポートフォリオの充実、継続的な学習、ユーザーセンタードなアプローチ、コミュニケーションスキル、そして専門性の構築は、デザイナーとしての成長と市場での成功に不可欠な要素です。

市場価値を高めるのは自分、チーム、顧客すべてのため

デザイナーの人材市場は競争が激しく、常に新しい才能が参入しています。デザイナーが競争に勝ち残るためには、自己研鑽とスキルの向上が重要です。

デザインは常に進化しているため、デザイナーは新しいトレンドや技術に対応し、自身のスキルセットをアップデートする必要があります。また、自己研鑽を通じて独自のアイデンティティや専門性を築くことで、他のデザイナーとの差別化を図ることも重要です。

デザイン業界では、経験や実績も重要な要素です。自身のポートフォリオを充実させ、優れたデザインの実例を提供することで、自身の価値を証明することができます。

さらに、デザイナーは業界のトレンドや最新の技術に対して敏感であることが求められます。業界の変化に対応し、新しいスキルや知識を習得することで、常に競争力を維持することができます。

デザイナーが自己研鑽に取り組むことは、自身の成長と競争力を高めるだけでなく、クライアントや雇用主に価値を提供することにも繋がります。デザイナーとしての価値を失わずに、常に自己向上を追求することが勝ち残るための重要な要素です。

Summary

他のデザイン分野と比べて、UXデザインはユーザー中心のアプローチを重視し、ユーザーのニーズを理解するためのリサーチやプロトタイピング、インタラクションデザインなどの新しいスキルが求められます。

 

UXデザインの周辺で仕事をするデザイナーにも、これまでのデザイナー像や仕事のやり方に固執する人もいます。しかし、UXデザインのスキルセットやマインドセットを身につけるチャンスと考えて、自分自身を変化させていくことが上策だと思います。
これまでの自身の専門分野とUXデザインの理念を組み合わせることで、ユーザーエクスペリエンスに配慮した優れたデザインを提供することができるのではないでしょうか。

 

それぞれのデザイナーは自身の興味や専門性に応じて領域を選択すればよいのです。積極的で主体的なマインドセットと価値あるスキルを持てば、デザインの世界で一緒に協力し合いながら成長を目指す、志の高い仲間と巡り会うことができるでしょう。