プランニング

中小企業のブランディング課題|CXデザインを導入するために

多くの中小企業では自社のブランディングに関して課題認識がありながらも、取り組みについては限定的です。
投資対効果が見えない、取り組み方がわからないというのが主な理由ですが、これはブランドに対する理解不足が原因です。
CXデザインに取り組む上でも、ブランドについての知識と実践経験が重要になります。
ブランドやブランディングを理解することで、また自社のブランドを明確にする過程で、投資対効果は自ずと見えてきます。
本稿では、CXデザインに必要なブランドの明確化と、ブランド定義の手順についてまとめます。

CXデザインに必要なブランドの明確化

CXデザインは、顧客体験をデザインするプロセスですが、その中でブランドの明確化が重要な役割を果たします。顧客体験はブランドの一部であり、ブランドのアイデンティティや約束を反映しているため、そもそもブランドが明確でないとCXデザインが成立しません。以下に重要なポイントを解説します。

ブランドアイデンティティの明確化

ブランドの本質的な価値や特徴を明確にすることで、顧客体験に一貫性を持たせることができます。ブランドのビジョン、ミッション、コアバリューを定義し、CXデザインに反映させる必要があります。

ターゲットオーディエンスの理解

ターゲットオーディエンスを正確に把握することで、顧客に対してより意味のある体験を提供することができます。顧客のニーズや要求を分析して本質的な欲求を理解し、ブランドの体験価値と結びつけることが重要です。

ブランドメッセージの統一

顧客や社会とのコミュニケーションにおいて、ポリシーやメッセージを一貫して伝えることで、顧客に対してブランドの一体感を醸成します。CXデザインにおいては、特にブランドのメッセージと実際の体験が統一されていることが必要です。

ブランドの形成や認知には、消費者の知識や経験、マーケティング戦略、コミュニケーション、口コミなど様々な要素が影響します。提供する側がブランド戦略を計画し、顧客との相互作用やコミュニケーションを通じてブランドを育成し、消費者にとって特別な存在として認識されることが重要です。これらの活動を総体として包含しデザインするのが、CXデザインとも言えます。

CXデザインは、顧客が企業や製品、サービスを利用する際の体験を計画し、デザインするプロセスです。顧客がブランドとの接点で感じるエモーション(感情)や満足度、便益を最大化し、顧客にポジティブな体験(感情)を提供することを目指します。CXデザインは、顧客のニーズを理解し、顧客との関係性を強化するための手段として、ブランド戦略を実現する重要な要素となります。

中小企業とブランド

多くの中小企業がブランドやブランディングに対して「取り組む必要がある」と課題感を持ちつつも、取り組みは限定的であることが現状です。その理由について、ネット上でも調査や情報が存在しますが、以下は一般的な理由として挙げられるものです。

費用対効果の不明確性

ブランドやブランディングの取り組みにはコストがかかるため、中小企業は費用対効果を気にすることが多いです。ただし、ブランド戦略やブランド構築の効果は即座には見えづらく、長期的な視点が求められるため、投資に対する不安が生じる場合があります。

リソースの制約

多くの中小企業は、人材や予算の制約があるため、ブランド活動に十分なリソースを割けないことがあります。ブランディングには戦略の策定から実施、継続的なマーケティングまで多岐にわたる取り組みが必要であり、それらを実行するだけの能力と資源が不足している場合もあります。

ブランド理解の不足

中小企業の経営者や従業員がブランドやブランディングに対する理解が不足していることがあります。ブランディングは複雑な概念であり、戦略立案や実行には専門的な知識が求められます。しかし、その知識を持たないために取り組み方がわからないと感じることがあります。

短期的な焦点

中小企業は日々の運営や売上に焦点を置くことが多く、長期的なブランド戦略に取り組む余裕がない場合があります。経営の安定や即時的な課題解決が優先されることから、ブランディングに費用や時間を割くことに抵抗を感じるケースがあります。

これらの理由が中小企業においてブランドやブランディングへの取り組みが難しい要因として挙げられます。中小企業がブランディングに取り組むためには、専門知識やリソースの活用、長期的な視点を持つことが重要です。また、成功事例や専門家の助言を参考にし、効果的なブランディング戦略を策定することが役立つでしょう。

ブランディングの期待効果

なかなか取り組みにくいブランディングですが、その期待効果は多岐にわたります。以下に、ブランディングがもたらす主な期待効果をいくつか挙げてみます。

ブランド認知と知名度の向上

ブランディング活動により、企業や製品・サービスの認知度が高まり、顧客にとってより身近な存在となります。知名度が上がることで、新規顧客の獲得が容易になることが期待できます。

信頼性と誠実性の向上

ブランディングにより、企業が持つ信頼性や誠実性が高まります。一貫したブランドメッセージや価値観を伝えることで、顧客は企業に対して信頼を寄せ、良好なイメージを持つようになります。

競合他社との差別化

ブランディングは企業や製品の独自性を表現する手段となります。顧客に対して他社との違いや優位性を伝えることで、競合他社との差別化が図れます。

価格許容範囲の拡大

良いブランドイメージを持つ企業は、同じ製品やサービスでも顧客が価格許容範囲を広げる傾向があります。ブランディングによって、顧客は高い品質や価値を期待し、それに見合った価格を支払う意欲が高まることがあります。これはブランディングに取り組んだ企業の多くが実効力として挙げています。

顧客ロイヤルティの向上

ブランディングにより、顧客のロイヤルティが高まります。良いブランド体験を提供することで、顧客はリピート購買をし、企業に対する忠誠心が生まれます。

従業員のモチベーション向上

ブランディングは企業の内外に向けたメッセージを形成しますが、それは従業員に対しても影響を及ぼします。魅力的なブランドイメージは従業員のモチベーション向上や企業に対する誇りを高める要因となります。

これらの期待効果によって、ブランディングは企業にとって信頼性や競争力を高め、持続的な成長に寄与する重要な要素となります。

ブランディングとは彫刻のようなもの

ブランディングのスタンスをわかりやすく例えるなら、彫刻のような活動と言えます。企業や製品、サービスをブランドとしてデザインし、消費者の心に共有可能な姿として浮かび上がらせていく過程は、彫刻家が石塊から美しい像を創り上げる作業に似ています。

ブランディングの活動は、以下のような過程を含みます。

存在意義を見いだす

まずは企業や製品の本質を理解し、それを他社との差別化要素として明確にすることから始まります。ブランドの起源や価値観を把握し、独自性や物語りを見いだすことが重要です。なぜこれをやるのか、彫刻で言えば作品作りの目的やモチベーションの源泉にあたります。

将来の姿を明確にする

次に、将来の目標やビジョンを考慮して戦略を立案します。ブランドの成長や展望を具体的に描くことで、ブランドに方向性を持たせることができます。彫刻になぞられるなら、作品作りの構想、具体的なイメージのスケッチといったところです。

現在の活動をブランドに合致させる

ブランドのビジョンやアイデンティティに基づいて、現在の活動を評価し調整する作業もブランディングです。広告、マーケティング、製品開発、カスタマーサポートなどのすべての活動をブランドの価値と一致させることが重要です。

一歩一歩ブランドを築く

ブランディングは短期的な取り組みだけでなく、持続的なプロセスです。ブランドを築くには、コンスタントなコミュニケーションや顧客との関係構築が必要です。

まさに彫刻家が作品を構想し、素材からコツコツと美しい彫像を生み出すようなイメージです。ブランディングは企業や製品の素材を活かし、独自性や価値を引き出すことで、顧客の中に魅力的なブランド像を創り上げる活動です。ブランディングのプロセスは継続的で、ブランドの成長と変化に目を向ける必要があります。

ブランドを形成する3要素

ブランドは抽象的な概念であり、専門家の中でも定義は1つではありません。

表層的には、視覚的・機能的な識別要素を指します。しかしそれだけでなく、消費者の心に浸透したイメージや体験価値の残像という情緒的な実体を持っています。以下にその詳細を説明します。

識別要素としてのブランド

例えばブランドロゴや名称は、製品やサービスを識別し、差別化するための重要な要素です。他にも、タグラインやスローガン、独自の機構や造形など視覚的・機能的な特長からブランドが識別されます。また、ブランドのアイデンティティやミッションなどの文言によっても、ブランドは他の競合ブランドと区別されます。

消費者の中に浸透したイメージ

消費者の心に浸透したイメージも、ブランドの一側面です。良いブランドは顧客の記憶や感情に深く刻まれ、消費者はブランドを信頼し、愛着を持ちます。製品の一貫した設計思想やポリシーなどもブランドイメージにつながります。ブランドイメージは広告、マーケティング、商品やサービスの質などを通じて形成されます。

体験価値の残像

ブランドは、消費者が商品やサービスを購入・利用した際の体験価値も含みます。消費者はブランドを通じて得られる特定の体験に価値を見いだし、その感情がブランドとの関係性を形成します。優れたブランドは、消費者のポジティブな感情を生み出す体験を提供し、顧客のロイヤルティを高めることができます。

つまり、単なる名前やロゴが記憶されるだけでなく、消費者との深いつながりを築き、感情や記憶に訴える力を持つことを意味します。ブランドが持つイメージや体験は、顧客の購買行動やブランドへの忠誠心に大きな影響を与える要因となります。そのため、ブランド戦略においては、顧客との心の結びつきを育むことが重要とされています。

ブランドの明確化とは

先に述べたとおり、ブランドは独自の価値を提供するための識別子であり、消費者の心に浸透したイメージや体験を持つ存在です。しかし、提供する側が独自の価値を認識していない場合でも、消費者から独自の価値やイメージを持つブランドとして認識されているケースがあります。

提供する側が独自の価値を認識していないケースとは

時には、企業やブランドが自社が提供する製品やサービスの独自の価値を認識していない場合でも、消費者がそれを独自の価値を持つブランドとして認識することがあります。これは、消費者がブランドに対して自分自身の経験やイメージを通じて価値を付加し、ブランドを特別なものとして捉えることがあるからです。

特に小規模な地域の事業や地域性の強い製品などは、ブランド名を積極的にアピールせずとも、地域の人々によく知られた存在として認識されている場合があります。

暗黙の中にある価値認識に識別要素を与える

上記のような暗黙に存在する価値認識を言語化し、ブランドに明確な識別要素を与えることは、ブランディングの重要な一環となります。特に、価値認識を戦略的に変更したり、事業の再定義を行う際には、ブランド定義書を策定することが重要です。

ブランド定義書は、ブランドの本質やアイデンティティを明確にし、ブランドのコアメッセージやポジショニングを社内外に共通化するための重要なドキュメントです。ブランド定義書の策定手順に従うことで、社内の意識を統一し、ブランドの一貫性を確保することができます。
それでは、ブランド定義書の策定手順について確認しましょう。

ブランド定義書策定の手順

中小企業が自社のブランドを明確にするためには、以下の手順を参考にすることが役立ちます

自社のビジョンとミッションの明確化

企業のビジョン(未来の目標)とミッション(存在意義・使命)を明確に定義し、ブランドの根幹を確立します。

ターゲットオーディエンスの特定

顧客層やターゲット市場を分析し、誰に対して価値を提供するかを明確にします。

競合他社との差別化

自社の特長や強みを明確にし、競合他社との差別化ポイントを見つけます。

ブランドの約束(ブランドプロミス)

顧客に対してブランドが提供する価値や約束を具体的に定義します。

ブランドアイデンティティの構築

ロゴ、スローガン、デザイン、カラースキームなどを策定し、ブランドのアイデンティティを明確化します。場合によってはデザインシステムを構築します。

ブランドコミュニケーションの統一

顧客や社会に向けたメッセージやコミュニケーションを統一し、顧客に対して一貫性のある体験を提供します。

ブランドの明確化は、CXデザインや顧客体験の向上において不可欠な要素です。中小企業がブランド戦略に取り組む際には、自社の特徴や価値を把握し、ブランドの一貫性を持たせることで、投資対効果が見えやすくなり、成功への道筋がより明確になるでしょう。

ブランドと社会的責任

近年、ブランドは社会的責任を果たすことが求められています。環境問題への取り組みや地域社会への貢献など、社会的な価値を持つブランドが好まれる傾向にあります。

CSR、CSV、ESG、SDGsなどは、企業のブランド戦略と密接な関係を持つ重要なトピックです。以下にそれぞれを簡単に紹介します。

CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任

CSRとは、企業が経済的な利益追求だけでなく、社会や環境に対して責任を持ち、持続可能な社会づくりに貢献することを意味します。
こうした取り組みは企業のイメージや評判を向上させ、ブランドに対してポジティブな影響を与えることがあります。顧客や社会に対して社会的価値を提供する企業は、信頼性や忠誠心を高めることができます。

CSV(Creating Shared Value):共有価値の創造

従来のCSR(Corporate Social Responsibility)とは異なり、CSVは社会的課題を解決するだけでなく、それをビジネス機会として捉え、持続的な競争優位性を築くことを強調します。
企業は、社会的課題に対する革新的なソリューションを提供することで、新たな市場を開拓したり、顧客のニーズに対応したりすることができます。

ESG(Environmental, Social, and Governance):環境・社会・ガバナンス

ESGは、企業の環境、社会、および統治に対する取り組みを評価する指標です。環境への影響、社会的な影響、経営・ガバナンスの質に注目し、企業の持続可能性を評価します。ESGの向上は、投資家やステークホルダーに対して企業のブランド価値を高め、資金調達や投資の選択肢を広げることに繋がります。

SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標

SDGsは、国連が採択した17の持続可能な開発目標であり、2030年までに貧困や格差の解消、環境保護、平和と公正の実現などを目指すものです。企業はこれらの目標に寄与する取り組みを行うことで、社会的な影響力を高め、ブランドのCSRや持続可能性に対する取り組みとして認知されることがあります。

CSR、CSV、ESG、SDGsに取り組むことは、企業のブランドに対してポジティブなイメージを築くだけでなく、社会への貢献という意義深い目標を達成するための重要な手段となります。これらの取り組みが企業のコアバリューと一致し、持続可能な成長を促進することがブランドに対して信頼性や価値をもたらすでしょう。

Summary

ブランド戦略は、企業や製品、サービスが顧客に対してどのような独自の価値やイメージを提供するかを計画し、ブランドのアイデンティティやポジショニングを明確にする戦略です。ブランド戦略は、顧客のニーズや要求、市場のトレンドなどを考慮してブランドを構築し、顧客に対して差別化や信頼性を提供するための計画です。
CXデザインはブランド戦略を具体的な体験に落とし込む手法として重要な役割を果たします。良いブランド戦略は、CXデザインを通じて顧客に対してブランドのコアバリューやイメージを体感させることができます。CXデザインは、顧客に対して独自の価値を提供するために、ブランド戦略を実践する手段として捉えることができます。