態度変容とは
まず、態度変容について簡単に説明しておきます。態度変容とは、ある対象に対する信念や感情、行動が変化することです。
マーケティングでは、顧客の態度変容を促すための広告やプロモーション活動が行われています。
例えば、ある商品の広告を見たことで、その商品に対する興味関心が高まり、購入を検討するようになることがあります。また、ある商品を実際に使用することで、その商品に対する評価が変わり、リピート購入につながることもあります。
態度変容、心理変容、行動変容
態度変容と近い言葉に、心理変容、行動変容があります。これらは、いずれも人の心理や行動の変化を表す言葉ですが、その違いは次のとおりです。
態度変容
特定の対象や事柄に対する評価や感情の変化を指します。例えば、ある商品に対する好意的な態度が、不快な態度に変化するなどのことです。
心理変容
態度変容を含む、人の心理の変化全般を指します。例えば、認知や感情、価値観などの変化も含まれます。
行動変容
人の行動の変化を指します。例えば、ある行動を行う頻度や量が増えたり、逆に減ったりなどのことです。
態度変容に着目する理由
したがって、態度変容は心理変容の一種であり、行動変容につながる可能性があります。例えば、ある商品に対する好意的な態度が変化することで、その商品を購入する行動につながる可能性があります。
具体的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。
態度変容:ある商品に対し好意を持ち、興味関心が高まる。
心理変容:その商品に対し価値観が変化し、購入を検討するようになる。
行動変容:その商品に関する情報を積極的に調べ、購入する。
このように、態度変容は心理変容や行動変容につながる一連の変化の最初のステップとして捉えることができます。
なお、態度変容や心理変容、行動変容を促すためには、さまざまな要因が関与します。例えば、情報や経験、社会的影響などが考えられます。
態度変容のモデル
マーケティングでは、顧客の消費行動の中にみられる態度変容をモデル化して考えてきました。旧来のモデルとしてはAIDMAやAISASなどがよく知られています。
AIDMA
このモデルは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字を取ったもので、顧客の購買行動を5つの段階に分けてモデル化したものです。
AISAS
このモデルは、Attention(注意)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)の頭文字を取ったもので、AIDMAモデルに「Search」の段階を追加したモデルです。
一方、近年は消費行動が複雑化したことから、上記のようなジャーニー型消費行動モデルに変わる概念として、パルス型消費行動モデルが注目されています。しかし、このパルス型消費行動においても、消費者の態度変容が重要なトピックであることは変わりありません。
態度変容を促す情報刺激
態度変容を促すためには、対象に対する知識や経験、価値観などを変化させる必要があります。そのため、情報刺激は、態度変容を促す上で重要な役割を果たします。
情報刺激は、新しい情報、データ、論拠、またはメッセージの形で提供され、マーケティングでは特に人々の態度に影響を与える可能性が考慮されます。
情報刺激には、以下のようなものがあります。
- 広告
- プロモーション活動
- 口コミ
- 教育
- 体験
これらの情報刺激は、対象に関する知識や理解を深めたり、感情や気持ちに訴えたりすることによって、態度変容を促すことを企図しています。
情報と情報刺激
情報とは、事実や知識、意見など、対象に関するものであり、客観的な性質を持っています。一方、情報刺激とは、情報に付随する感覚や感情などの主観的な要素を含みます。
情報が情報刺激として受け止められるには、受け手の主観的世界に入り込む必要があります。そのためには、受け手がどのような場面で情報に接触するのかについて、考察が欠かせません。
視覚に入り込む
企業やマーケターは、デザインや広告を通じて商品やサービスに対するイメージや情報を伝え、消費者の態度変容を促すことを目指します。
魅力的なデザインや効果的な広告は、消費者の注意を引きつけ、興味を喚起し、態度変容を引き起こすことがあります。
普段のコミュニケーションに入り込む
スマートフォンの普及とCGM(Consumer Generated Media|コンシューマー ジェネレイテッド メディア)の発展により、受動的な情報摂取が増えています。
例えば、YouTube、TikTokなどで動画を眺めていたり、インスタやSNSのフィードをなんとなく流して観ていたりするような場合です。これらのコンテンツも態度変容を促す契機になります。
企業やマーケターは、彼らがこれらの場面で求めるコンテンツやコミュニケーションを提供することで態度変容を促します。
また、自然発生的な口コミや、友人や知人との何気ない会話も、態度変容に影響を与える情報刺激の一形態です。
動画やSNSなどを含め、他の人からの意見や経験を聞くことで、消費者は商品やサービスに対する評価や態度を見直すことがあります。また、口コミや会話によって、信頼性や社会的な影響力が高まり、消費者の態度変容を促すことがあります。
ユーザーエクスペリエンス(UX)やカスタマーエクスペリエンス(CX)を高める事で、これらの態度変容にポジティブな影響を与える可能性が高まります。
積極的な情報探索の場面に入り込む
スマートフォンの普及により、ちょっと気になったことをすぐに調べるという行動が日常的かつ頻繁に行われるようになりました。
企業やマーケターは、消費者が求める情報を提供することで顧客接点を増やし、エンゲージメントを高める事を目指します。さらに、これらの場面を利用して関連性のある商品やサービスの情報を提供し、行動要請を行う事で態度変容を促します。
デザインの情報処理と感覚刺激
企業やマーケターによる、態度変容を企図するコミュニケーションでは、デザインが関与する場面が数多くあります。受け手の中で、デザインがどのように情報処理されるかを整理してみましょう。
デザインされたものを見たり、感じたりする場合、まず感覚刺激が存在します。視覚的なデザインでは、色や形、配置などの要素が感覚刺激として働きます。それらの感覚刺激は、感覚器官(目)によって受け取られ、脳に送られます。
知覚的解釈と言語的解釈
その後、脳は受け取った感覚刺激を解釈する処理を行います。この処理は、感覚情報を意味や形として組織化し、それを認識や理解につなげるプロセスです。
デザインの要素が組み合わさって、具体的な対象やパターン、概念などとして脳内で解釈されます。この際、テキスト(と認識された情報)は言語として解釈されます。
この解釈のプロセスは、個人の経験や文化、教育、感性などによっても影響を受けます。同じデザインを見た複数の人々が、それぞれ異なる解釈や意味を抱くことがあります。
情報を解釈することで、思考と感情が動く
そして、その解釈や理解に基づいて、感情が動くことがあります。デザインの要素や表現が感情を引き起こしたり、特定の意図やメッセージを伝えたりすることがあります。
たとえば、美しいデザインや調和のとれた配置は喜びや興奮を引き起こすかもしれません。逆に、乱雑なデザインや不快な色彩は不快感や嫌悪感を引き起こす可能性があります。
情報刺激で狙う、態度変容のトリガーについて
感情トリガーや心理トリガーによって態度変容が引き起こされることは、さまざまな研究によって明らかにされています。
これらのトリガーは、情報や刺激が受け手の感情や心理状態に影響を与え、態度や行動の変化を引き起こす役割を果たすことが示唆されています。
直感センサー
ここでは特に、Googleが示した直感センサーという概念についてご紹介します。2019年に同社が提唱したパルス型消費行動において態度変容を促すトリガーとして興味深い分析が行われています。
ジャーニー型消費行動とパルス型消費行動
スマートフォンやオンラインショッピングなどのデジタルプラットフォームの普及により、消費者はリアルタイムで情報を得て商品を購入することが容易になりました。
パルス型消費行動という概念は、こうした現代のデジタルテクノロジーの普及とともに注目されている消費行動の一形態です。
この消費行動は、短い時間枠内で瞬間的に生じる消費欲求に基づき、即座に商品やサービスを購入する行動を指します。
従来の「ジャーニー型消費行動」とは異なり、パルス型消費行動はより短期的で即時的なニーズの充足を目指す傾向があります。
消費者は何気ない日常の中で突発的な欲求を感じ、それに応じる商品やサービスを即座に見つけて購入することがあります。
このような消費行動は、情報の瞬時的な吸収や直感的な判断に基づいて行われることが特徴です。
6つの直感センサー
直感センサーという概念が興味深い分析であるのは、消費者の瞬時の判断や感情に訴える要素を把握・活用して、パルス型消費行動の中での態度変容や購買意欲の喚起を効果的に促す可能性があるからです。
6つあるとされる直感センサーのうち、消費者が反応しやすいものは、「セーフティ」と「フォーミー」次いで「コストセーブ」だそうです。
他には「フォロー」「アドベンチャー」「パワーセーブ」という3つがあり、これらの直感センサーにどう働き掛けるかは、私たちにとって課題となります。
パルス型消費行動の態度変容を捉える
直感センサーの考え方は、効果的なデザインやコンテンツの開発、行動データの調査やアンケート分析などに応用されることが期待されます。
直感センサーは、消費者の直感や非言語的な反応を捉えることによって、情報の訴求や提供方法を最適化することを目指しています。例えば、商品のデザインやパッケージング、広告の表現やストーリーテリングなどが直感センサーの要素として取り入れられることがあります。
以上の直感センサーについては、こちらを参考にしています。
これらの研究やアプローチは、情報刺激を効果的に生み出し、受け手の関与や態度変容を促進するためのヒントを提供しています。
具体的な手法や戦略は研究や実践によって進化していますが、消費者の感情や直感に訴える要素、情報の訴求方法、コミュニケーションの効果的な手法などが重要なポイントとされています。
パルス型消費行動については、こちらもご参照ください。
情報刺激とセレンディピティ
私たちは情報の中から「差異」を抽出し、その差異に意味を見出す傾向があります。直感センサーもそのような情報処理の一環と考えられます。情報の差異が情報刺激として働き、私たちの注意を引き、意味を生み出すのです。
デザインが担うもの
これらの文脈の則れば、デザインは情報刺激を生み出すための情報操作全般を横断する必要があります。つまりデザインには戦略的なアプローチが求められるだけでなく、エモーショナルな表現もより重要になってきます。
消費者が「あ…!?」と驚きや関心を持ち、「ピンときた…!」と感じる瞬間は、デザインと情報刺激の効果的な組み合わせによって生まれることが期待されます。
デザインを通じて情報を魅力的に伝えることで、消費者の注意を引きつけ、セレンディピティな瞬間を引き起こすことを狙います。
パルス型消費行動の中で、戦略的にセレンディピティな瞬間を演出することは重要です。消費者は限られた時間枠で意思決定を行い、情報に触れることがあります。そのため、デザインや情報刺激を通じて、効果的かつ魅力的な情報を提供し、消費者の興味や関与を引き出すことが求められます。
セレンディピティについて
このセレンディピティ(serendipity)もまた、近年さまざまな研究の対象となっています。セレンディピティは、偶然の発見や予期せぬ結果の出現など、思いがけない幸運や創造性の瞬間を指します。この概念は科学や技術の分野だけでなく、創造性やイノベーションのプロセス、個人の成長や学習においても重要な要素とされています。
セレンディピティは、既知の情報や知識と新たな情報や知識が出会い、意外な関連性やパターンが見出されることで生じることがあります。偶然や予期せぬ出来事が、新たなアイデアや洞察をもたらすことがあります。このようなセレンディピティの瞬間は、創造性やイノベーションの源泉となることがあります。
近年の研究では、セレンディピティの発生に影響を与える要素や条件、セレンディピティを促進するためのアプローチなどが探求されています。また、デザインや情報の分野においても、セレンディピティを意図的に促す手法やデザインプロセスが検討されています。
生態的情報処理のイメージから行動変化を捉える
最後に、情報が脳内で処理されるイメージ的な話をしようと思います。
情報刺激は受け手の脳内で反応を引き起こすことができます。視細胞などの感覚器官を通して、情報の粒子が脳細胞の電位を変えるようなイメージです。
脳神経の興奮状態と行動
というのは、情報が神経系に作用し、神経経路の活動に影響を与える可能性があること考えるからです。脳は情報の処理や記憶の形成に関与しており、情報刺激が脳内で変化を引き起こすことで、受け手の認知や行動に影響を与えるという見立てです。
このようなプロセスで、情報刺激は行動変化を引き起こします。このときの脳の興奮状態の強度によって、出てくる行動にも差が生じるはずです。
微細な行動変化を捉えられるか
生理的な状態変化から生じる行動変化を正確に捉えるのは困難ですが、たとえばカーソルの動きやスクロールのパターンなどに変化が生じる可能性があります。これらは高機能なヒートマップツールなどを用いることで、示唆を得ることは可能になるでしょう。
情報刺激は、ただ単に情報を伝えるだけではなく、受け手の関心や関与を引き出し、意識的な処理や反応を促すことができる特別な性質を持っています。このような特性によって、情報刺激は情報の効果的な伝達や認識、行動の変容に貢献することができます。