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UXデザイナーのデザイン思考とアート思考〜問題解決と創造性の融合〜 

デザイン思考とアート思考は、創造的な仕事に従事するプロフェッショナルにとって重要な概念です。これらのアプローチは、異なる視点や手法を通じて問題解決やイノベーションに取り組む上で役立ちます。本記事では、UXデザイナーにとって必要なデザイン思考とアート思考について、両者の違いを含めて考察します。

デザイン思考とは

デザイン思考は、主に問題解決に向けたプロセスと手法として語られます。これらはCXデザイン関連の記事でも取り上げているので、ここでは少し角度を変えて、デザイナーが身につけるべき能力としてのデザイン思考についてお話します。

ユーザーへの共感と洞察

デザイン思考では、ユーザーの視点やニーズを理解することが重要です。ユーザーへの共感(ユーザーエンパシー)は、ユーザーの感情や体験に共感し、彼らの状況や要求を深く理解する能力です。ユーザーエンパシーを持つことで、より具体的かつ効果的な解決策を見つけることができます。

クリエイティビティとアイデア生成

デザイン思考では、クリエイティビティとアイデア生成のスキルも重要です。クリエイティビティは新しい視点やアプローチを見つける能力であり、アイデア生成は多様なアイデアを生み出す能力です。クリエイティビティとアイデア生成のスキルを持つことで、より創造的な解決策を提案し、イノベーションを促進することができます。

ビジュアルコミュニケーション

デザイン思考では、アイデアやコンセプトを視覚的に表現するスキルも重要です。ビジュアルコミュニケーションは、グラフィックデザインやモーションデザイン、動画によるストーリーテリングの手法を通じて、物事の本質的な価値を他者に伝えるスキルです。効果的なビジュアルコミュニケーションは、利害関係者間の意思疎通を円滑にし、アイデアの共有やフィードバックの受け入れを容易にします。

デザイン思考マインドセット

デザイン思考には特定のマインドセットも存在します。これには、柔軟な思考、共創性、プロトタイピングと失敗の受容、ユーザー中心のアプローチなどが含まれます。デザイン思考マインドセットは、新たな問題や挑戦に対してオープンな姿勢を持ち、学びと成長の意欲を持って取り組むことを意味します。

アート思考とは

アート思考は、創造的な思考や表現を通じて世界を捉える方法です。それは、既存の枠組みや規則にとらわれることなく、独自の視点や感性を駆使して現実を探求します。ビジネスシーンにおいてアート思考が注目されるのは、イノベーションを促進するコラボレーションや創造性の発揮を組織に取り入れようとする事からでしょう。デザインの現場でも例外ではありません。こちらも、デザイナーの能力として要求される側面から見ていきましょう。

物事の根本を掘り下げる力

アート思考では、表面的な見え方や現象だけでなく、その背後にある本質や意味を探求する力が重要です。アート思考のアーティストやクリエイターは、事物や概念を深く考察し、複数の解釈や視点を見出すことができます。

主体的な創造性

アート思考は個人の独自性や創造性を尊重します。アーティストやクリエイターは、自己表現や感性を通じて新たなアイデアや作品を生み出します。彼らは規則や制約にとらわれることなく、自由な発想や実験を追求します。

コンセプチュアルな表現

アート思考では、アイデアやメッセージをコンセプチュアルな形で表現する能力が重要です。アーティストは視覚的な表現だけでなく、シンボルや象徴、抽象的な概念を用いて思考や感情を伝えることができます。

感性と感情の表現

アート思考では感性と感情が重要な要素となります。アーティストは直感や感情を活かして創造活動に取り組み、それらを作品や表現に反映させます。感性や感情の表現は、観客や受け手との共感や共鳴を生み出し、深いインパクトを与えることがあります。

デザイン思考とアート思考の違い

デザイン思考とアート思考は、CXデザインの中では相互に補完する視点として機能します。ここでは、敢えてその違いについて見ていくことで、相互補完的な能力とは何かを掘り下げてみたいと思います。

問題解決 vs. 創造性の追求

デザイン思考は、問題解決において重要なスキルセットです。問題の理解、アイデアの共創、プロトタイピング、ユーザーテスト、反省と改善といった要素を組み合わせることで、、ユーザー中心の問題解決やイノベーションに焦点を当てたアプローチです。

一方、アート思考は創造性や表現の視点に焦点を当てます。従来の枠組みや定石にとらわれず、創造性を駆使した独自の発想や異なるアプローチを用いることで、新たな解決策や視点を見つけることができます。

ユーザー中心 vs. 個人的な表現

デザイン思考では、ユーザーのニーズや課題を理解し、それに基づいてユーザー中心のソリューションを創造します。

アート思考では、感性や直感を活かし、独自のアイデアや表現手法を追求します。アート思考は視覚的なインパクトや感情的な共鳴を通じて、ユーザーに深い印象や体験を提供することがあります。

プロセス指向 vs. 芸術的な自由

デザイン思考は観察、共感、定義、アイデア出し、プロトタイピング、テストという一連のプロセスを通じて、ユーザーエクスペリエンスの向上や課題解決を実現します。

アート思考は、ビジネスにおけるブランディングやストーリーテリングにも活かされます。ブランドの持つストーリー性や感性的な要素に対して、ビジョンやメッセージを鮮明に伝えるための表現手法や視覚的なインパクトをもたらすことができます。

AI時代のデザイナーに必要なアート思考

デザイナーにとってアート思考は重要な要素です。アート思考を取り入れることにより、創造性や独自性を追求し、他とは異なる魅力的なデザインを生み出すことが可能となります。現在のワークフローでよく見られる「見栄えだけのデザイン」は、AIが生成するアウトプットと何ら変わることとがありません。この状況に陥る状況を改善するために、アート思考を活用する方法について考えてみましょう。

ユーザーエンパシーを重視する

物事を深く掘り下げ、その根源を見つめる事がアート思考の重要な一面です。中でも、ユーザーエンパシーは重要な要素です。ユーザーの感情や思考を深く理解し、ユーザーの視点に立ってデザインを考えることが求められます。アート思考を通じて創造性を追求する際にも、ユーザーの目線を忘れずにデザインを展開しましょう。

独自の視点やアイデアを追求する

他の事例やベストプラクティスを参考にするのは一つの手段ですが、独自の視点やアイデアを追求することも重要です。アート思考を活用して、既存の枠組みにとらわれずに新たなアプローチや解決策を見つけ出すことが求められます。自分自身の感性や経験を活かし、他とは異なるデザインの可能性を探求してみてください。

自己表現と探求への情熱

商業デザインはビジネスの目的や顧客のニーズを満たすことを重視しますので、デザイナーの自己表現や情熱が優先されるわけではありません。しかし、デザイナー自身の内面的な要素、つまり自己表現や情熱は、創造的な仕事において重要な要素となります。

自身の感性やアイデンティティは、独自性や魅力を生み出す根源ともなります。自分が本当に興味や情熱を持っているテーマやスタイルに向かって探求を続けることが重要です。

美的価値と感性の理解

美的な要素はデザイン思考の中で語られることが意外と少ないのですが、言うまでもなくデザイナーにとって非常に重要な要素です。

美的な要素は顧客の感性や情緒に訴えかけることができ、顧客の関与や魅力を高めます。美的な価値や感性の根源を理解することは、デザインの創造やブランドのイメージ構築に寄与します。

これらの要素を考慮しながら、デザイナーはアート思考を活用することで、より創造的で独自性のあるデザインを生み出すことができます。見栄えだけではなく、ユーザーエクスペリエンスや意義のあるデザインに焦点を当てることで、より価値のある成果物を提供できるでしょう。

Summary

デザイン思考とアート思考は、異なるアプローチや目的を持っていますが、デザイナーにとっては補完的な関係にあります。デザイン思考のプロセスや方法論を通じて問題解決に取り組む一方で、アート思考の要素を取り入れることで独自性や創造性を発揮し、デザインに美的な要素や感性を加えることができます。

デザイナーがデザイン思考とアート思考を組み合わせることで、問題解決と自己表現の両方を追求することができます。デザインの成果物が機能的でありながら美的な要素を持つことで、ユーザーエクスペリエンスの向上やブランド価値の向上につながるでしょう。