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UIデザインを理解する〜ヤコブ・ニールセンの10原則〜

ヤコブ・ニールセン(Jakob Nielsen)は、ユーザビリティとユーザーエクスペリエンス(UX)の分野で著名なデザインの専門家です。
彼はWebデザインとユーザビリティに関する多くの研究を行い、多くの企業とウェブサイトにアドバイスを提供してきました。彼が提唱する「ユーザーインターフェイス設計のためのユーザビリティヒューリスティック10の原則」は、Webサイトやアプリケーションのデザインにおいて、ユーザビリティを向上させるための指針として広く認知されています。

ヒューリスティスクとは

この10原則はユーザビリティヒューリスティックと言っています。まず、ヒューリスティクスという語について理解を深めておきましょう。

まずヒューリスティスク(Heuristics)とは、ユーザビリティエンジニアリングやユーザーインターフェース(UI)デザインにおいて、問題の特定や評価を行うための経験則や一般的な指針のことを指します。ヒューリスティスクは、ユーザビリティの向上を目指す際に、早くかつ効果的に問題を発見するために役立ちます。

ヒューリスティスクは、通常は専門家によって開発されます。ユーザビリティの分野では、ヤコブ・ニールセンが提唱した10箇条のユーザビリティ・ヒューマンインターフェースのデザイン原則(先に挙げたもの)も、ヒューリスティスクの一つとして考えられます。

ヒューリスティスクの利点は以下のようになります。

  • 迅速かつ経済的な評価: ユーザビリティテストを実施するのに比べ、ヒューリスティスクは短時間で行えるため、迅速に問題を発見できます。
  • 経験則に基づく指針: ヒューリスティスクは経験則や一般的なデザイン指針に基づいており、実践的で具体的なアドバイスを提供します。
  • 多様な分野で利用可能: ヒューリスティスクはユーザビリティの分野だけでなく、他の分野でも問題解決や評価に応用することができます。

ただし、ヒューリスティスクにはいくつかの制約もあります。

  • ユーザーフィードバックと異なる可能性: ヒューリスティスクは専門家による経験則に基づいているため、実際のユーザーフィードバックと異なる場合があるかもしれません。
  • 全ての問題を網羅できない: ヒューリスティスクは一般的な指針であり、特定のコンテキストやターゲットユーザーに応じた問題を網羅しきれないことがあります。

したがって、ヒューリスティスクはユーザビリティエンジニアリングの一部として、他の手法と組み合わせて使われることが一般的です。ヒューリスティスクを活用することで、より効果的にデザインの問題を特定し、ユーザビリティを向上させることができます。

ヤコブ・ニールセン10の原則

それでは、10の原則を見ていきましょう。

システム状態の可視化 (Visibility of system status)

ユーザーがシステムの現在の状態を理解できるようにすることは重要です。ユーザーは、自分がどのページにいるのか、どの操作が進行中なのか、システムが応答しているのかなどの情報を常に把握できるようにする必要があります。システムの状態がユーザーに適切に表示されることで、混乱や誤った操作を防ぎ、ユーザーのストレスを軽減することができます。

  • オンラインストアでの商品の注文手続きにおいて、カートに追加した商品の数量と合計金額が画面上部に常に表示される。
  • フォームの送信中に、進行状況を示すプログレスバーが表示され、ユーザーがどのステップにいるかがわかる。

実世界とシステムの一致 (Match between system and the real world)

システムのデザインや用語を、ユーザーが既に理解している実世界の概念に合わせます。ユーザーは既に日常的に使っている言葉や操作をシステム内で再利用できることで、学習コストが低くなり、自然な操作が可能となります。

  • 電子メールアプリケーションで、「送信」ボタンに紙ヒコーキや「削除」ボタンにゴミ箱のアイコンを使うように、一般的な行動に沿った概念を示す。
  • カレンダーアプリケーションで、地域ごとや個人の習慣に合わせた使い方ができるよう、週の始まりをユーザーが設定できるようにする。

ユーザー主導の自由な操作(User control and freedom)

ユーザーが誤った操作をしたり、意図しない動作を行った場合でも、システムがユーザーを制約することなく、簡単に元に戻せる仕組みを提供します。

  • 長いフォームの入力中に「キャンセル」ボタンを表示して、途中でやめたい場合に戻れるようにする。
  • モーダルウィンドウを使用する際に、ユーザーがモーダルウィンドウ外をクリックすることで、ウィンドウを閉じられるようにする。

一貫性の維持と、標準(Consistency and standards)

インターフェース内で一貫性を保ち、ユーザーが馴染みやすい標準的なデザインや操作を提供します。類似の機能や要素は同じ方法でアクセスできるようにしたり、同じアクションが同じ結果をもたらすように設計することで、ユーザーが混乱せずにシステムを使えるようにします。

  • ナビゲーションメニューは、サイト内の全てのページで同じ位置に配置され、同じスタイルで表示される。
  • ショッピングアプリで、「カートに追加」のアイコンは、普遍的にショッピングカートのアイコンで表される。

エラーの防止(Error prevention)

ユーザーが誤った操作を行わないように、注意喚起や確認機能を設けることでエラーを予防します。

  • フォームの入力が不十分な場合、エラーメッセージを表示して、不足している項目を指摘する。
  • ログイン時に認証エラーが発生した場合、具体的なエラーメッセージを表示して、どの入力が間違っているかを示す。

記憶に頼らず理解できる(Recognition rather than recall)

ユーザーに記憶を頼らせず、直感的に理解できるデザインを行います。ユーザーは操作のために何かを記憶する必要がなく、情報や選択肢が明確に示されることで、ユーザーが正しい操作を容易に理解できます。

  • 入力フィールドに対して、ユーザーが何を入力する必要があるかを示すインラインヒントを表示する。
  • 複数のコンテンツをタブやアコーディオンメニューで表示することで、ユーザーは必要な情報を直感的に切り替えることができる。

柔軟性と効率性を与える(Flexibility and efficiency of use)

上級ユーザーと初心者の両方を考慮して、柔軟で効率的な操作を可能にします。ユーザーが短いパスで目的を達成できるように工夫します。

  • 上級ユーザー向けのキーボードショートカットを提供して、マウスを使わずに効率的な操作を可能にする。
  • フォームの入力内容を保存しておき、次回以降に同じ情報を再入力せずに使えるようにする。

ミニマルで美しいデザイン(Aesthetic and minimalist design)

余計な情報や要素を排除し、シンプルかつ美しいデザインを追求します。無駄な装飾を削ぎ落とし、重要な情報や機能に焦点を当てることで、ユーザーにとって視覚的にクリーンで使いやすい環境を提供します。

  • シンプルなレイアウトとフォントを使用して、情報を整理し視認性を高める。
  • 余計な情報や装飾を排除し、重要なコンテンツに焦点を当てる。

エラーの認識と回復方法の提供(Help users recognize, diagnose, and recover from errors)

ユーザーがエラーを犯した場合でも、エラーの原因を理解し、容易に回復できるような手段を提供します。わかりやすいエラーメッセージや問題解決の手順を示すことで、ユーザーが迷わずエラーを解決できるようにサポートします。

  • ユーザーがエラーを起こした要素に対して、ハイライトやアニメーションを使用して目立たせることで、ユーザーにエラーの場所を示す。
  • ユーザーが誤って重要なデータを削除したり変更したりした場合には、バックアップや元に戻す機能を提供する。

ヘルプとドキュメントの原則(Help and documentation)

システムの使用方法や機能に関するヘルプやドキュメントを提供することで、ユーザーが困ったときにサポートを受けられるようにします。ただし、直感的なデザインを心掛け、ドキュメントの依存を最小限に抑えることが大切です。

  • ヘルプセンターやよくある質問(FAQ)ページを提供し、ユーザーが必要な情報を自己解決できるようにする。
  • 複雑な操作や機能について、ユーザーガイドやチュートリアルを提供する。

これらの原則を考慮してデザインされたウェブサイトやアプリケーションは、ユーザーがスムーズかつ効果的に目的を達成できるようになります。

その他のユーザビリティ向上に関するアプローチ

ヤコブ・ニールセンの研究は、ユーザビリティとUX分野において非常に重要なものであり、彼の提唱した10箇条の原則は広く受け入れられています。しかし、その後も多くの研究者やデザイナーがUI(ユーザーインターフェース)の原則について研究を進めており、新しい考え方やアプローチが提案されています。

以下は、ヤコブ・ニールセンの研究以降に登場したUIの原則に関連するいくつかの研究やアプローチの例です。

デザインシステムとコンポーネントベースのアプローチ

GoogleのMaterialやShopifyのPoralisなどが代表的なデザインシステムは、一貫性のあるデザインとパターンを提供するために、再利用可能なコンポーネントやスタイルガイドを組み合わせたアプローチです。デザインシステムは、複数のプロジェクトやチームでデザインの一貫性を確保するのに役立ちます。

アクセシビリティ重視のデザイン

ユーザーが様々な能力や状況に対応できるよう、アクセシビリティを重視したデザインが注目されています。例えば、視覚障害者への対応や、キーボード操作による操作性の向上などが考慮されます。

ユーザーセンタードデザインとユーザーリサーチ

ユーザーセンタードデザインは、ユーザーのニーズや要求に基づいて製品やサービスをデザインするアプローチです。ユーザーリサーチを通じてユーザーのフィードバックを収集し、そのフィードバックを元にデザインを改善することが重要視されています。

モバイルファーストデザイン

モバイルデバイスの利用が増加しているため、小さい画面やタッチ操作を前提としたデザインが求められています。モバイルファーストデザインは、モバイルデバイスからアクセスするユーザーを優先し、それに合わせたデザインを行うアプローチです。

マイクロインタラクション

マイクロインタラクションは、小さな操作やアニメーションなど、細かい要素に焦点を当てたインタラクションのデザインを指します。これにより、ユーザーとのコミュニケーションやフィードバックの提供がより豊かになります。

Summary

これらの研究やアプローチは、ヤコブ・ニールセンの原則を補完し、より進化したUIデザインを実現するために重要な役割を果たしています。ユーザビリティやユーザーエクスペリエンスに関する研究は常に進化しており、新しいテクノロジーやユーザーのニーズに合わせたアプローチが提案され続けています。